特定非営利活動法人 イージェイネット(Ejnet)

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Ejnetメルマガバックナンバー・第71号

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◆◇NPO法人イージェイネット メールマガジン第71号◇◆
「時代をリードする医療人が働きやすい病院の作り方、お教えします」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2015/11/30 ━━
 
◆◇━━━━━━━━◆◇◆今月のニュース◆◇◆━━━━━━━━━◆◇
〔1〕『 チーム医療とは何ですか?何ができるとよいですか?
        ‐エビデンスに基づいた「チーム医療2.0」のすゝめ(前編)』 
   ◆国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部
        上席主任研究官  種田 憲一郎 氏                
〔2〕イージェイネット事務局からのお知らせ   
〔3〕メルマガ事務局より編集後記
 
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〔1〕『 チーム医療とは何ですか?何ができるとよいですか?
         ‐エビデンスに基づいた「チーム医療2.0」のすゝめ(前編)』 
   
「チーム医療」とは何でしょうか。私が医師となった20余年前には既によく
使われていた表現で、おそらくもっと以前から使われてきた言葉であり、今
でも私達が大切なこととして伝えていることでしょう。私が現在勤務する国
立保健医療科学院は保健・医療・福祉分野における人材育成を半世紀以上に
わたって行っています(前進の国立公衆衛生院では1938年から、国立医療・
病院管理研究所では1949年から)。その中でも公衆衛生活動はチームワーク
であるという理念に基づき、国立公衆衛生院時代の1961年から、合同臨地訓
練と称する多職種チームによる現場での課題対応訓練を現在でも行っていま
す。
 しかしながら、何ができていると、私たちは「チーム医療をやっています
!」、と言えるのでしょうか。様々な職種の医療者が集まれば「グループ」
はできますが、それだけで果たして真の「チーム医療」ができるのでしょう
か。私は10年余り医療安全や医療の質に関わる仕事をしてきて、「チーム医
療」は医療の質・安全を推進するためにやはり必須のことで、かつ働きやす
い職場にもつながる1つの鍵ではないかと考えています。
 またこの3年間はWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局(マニラ)にて、
医療安全および医療の質の専門官として日本を含む37の加盟国と地域を支援
してきました。その中で、人材など資源の限られた状況においてこそ(日本
の医療現場も含めて)、真の「チーム医療」が必要であるとも感じています。
 そこで、この「チーム医療」について、読者の皆さんに一緒に考えて頂き
たい10の疑問があります:
1)あなたの業務は誰かとチームとして協働する必要がありますか。
    個人の技能を高めるだけでは業務の遂行は不十分なのでしょうか。
2)あなたはその誰かとうまく協働できていますか。
    なぜあなたはうまく協働できるのでしょうか。
3)うまく協働できない人はいませんか。
    なぜその人はうまく協働できないのでしょうか。
4)私たちは生来、訓練をしなくても、うまく協働できるはずなのでしょうか。
5)日本人ならば「阿吽の呼吸」で仕事ができるはずで、それは皆ができる
    ことなのでしょうか。
6)チームとしての協働が必要だとすると、チームで何ができるとよいので
    しょうか。ただ複数の医療人が集まればよいのでしょうか。
7)チームスポーツでは個人技を高める訓練とともに、チームでもトレーニ
  ングを行いますが、医療人は特別で、チームトレーニングをしなくても
  チームとして最適のパフォーマンスを発揮できるのでしょうか。
    先日のラグビーワールドカップで活躍した日本代表の五郎丸選手は、
  あの素晴らしいキックである個人技を高める訓練だけで、チームとして
  の練習はしていないのでしょうか。
8)航空業界では安全な運航のためにCRMというチーム・マネジメントの訓練
    を行いますが、医療人は特別で、訓練しなくてもチームとして協働でき
    るのでしょうか。
      先日、医療の質・安全学会の学術集会で、医師で宇宙飛行士である古
    川聡先生の特別講演「『優れたチーム』に必要なこと ~私が学んだこと
    ~」を拝聴しました。その中で優れたチームとなるためにCRM訓練をや
    はり受けたというお話がありました。医師であればチームとして協働で
    きるはずという前提はなく、訓練が免除されることはなさそうです。そ
    こで私は医療人にもCRMが必要か質問をしたところ、できればしたほうが
    よい、とのことでした。今の医療現場には必要性があっても、訓練する
    ための資源が限られているという印象をもっておられるようでしたが。
9)患者家族は「チーム医療」の一員なのでしょうか。米国で息子と夫が医
    療事故の被害者となったスー・シェリダンさんは、「患者・家族もチー
    ムの一員、パートナーとしてできることがある」と言っています(「患
    者家族からのメッセージ1」参照)。
10)エビデンスに基づいた治療やケアは推奨されていますが、チーム医療
    の実践はエビデンスに基づく必要はないのでしょうか。チームに関する
    研究も数多くあり、エビデンスが蓄積されています。
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■患者家族からのメッセージ1
 スー・シェリダンさんの息子のキャル君は米国の大病院で健康な男児とし
て生まれました。生後間もないキャル君の黄疸がひどくなるので、スーさん
は医療者に心配であることを何度も訴えたが、初めての出産で心配のしすぎ
だと、当初はとりあってもらえませんでした。ようやく入院して血液検査で
 ビリルビン高値がわかりましたが、光線療法のみで大丈夫と判断されました。
しかしながら症状は悪化し、後に典型的な重症の核黄疸と診断され、今でも
全身が不自由な生活をおくっています。その後の調査で研修医がカルテに血
液型を誤って記入しており、親子の血液型不適合が見逃されていることがわ
かりました。
 またスーさんの夫であるパットさんは、頸部の脊髄腫瘍がみつかり、米国
でベストと言われた脳外科医のいる病院で手術を受けました。術中の病理診
断で「非定型的紡錘細胞腫瘍」と連絡があり、執刀医は良性と判断しました
が、病理医は悪性を疑っていました。術後21日目に病理から「滑膜細胞肉腫」
という最終報告書が出ましたが、執刀医が目を通すことはなく6カ月間放置
されました。パットさんの脊髄腫瘍はその後痛みを伴って再発し、7回の手
術と9カ月におよぶ化学療法、数回の放射線療法の末、亡くなりました。
 スーさんは私達に訴えています:「患者家族もチームのメンバーとして、
医療人のパートナーとして、できることがある」「チームの中に一人の優れ
た技術をもった医師がいても、チームとして機能しなければ、連携がうまく
いかなければ、救えるはずの患者も救えない」「ミスは一人の責任ではあり
ませんが。。。もしもシステムによる真の安全文化が実践されていたら」
「私達家族の医療システムへの信頼は裏切られました。。。障害があっても
決してあきらめずに患者安全に取り組んで下さい」と。
 日本においても、子供の様子がおかしいという母親の懸念が医療者に聞き
届けられず、お子さんが急変して亡くなった医療事故や、病理検体の取り違
え、病理検査結果の見忘れ・見落としなど同様の医療事故が起きています。
■患者家族からのメッセージ2
 英国パイロットのマーティン・ブロミリー氏の妻であるイレインさんは、
再発性の副鼻腔の問題に悩まされ、矯正手術と鼻中隔形成術のため麻酔を受
けました。よくあるルーチンの手術であったはずが、目を覚ますことなく,
13 日後に亡くなりました。2 人の幼い子を残して。
 イレインさんの手術には、複数の経験豊かなベテランの麻酔科医と手術室
担当スタッフが立ち会っていたにも関わらず、気管内挿管にことごとく失敗
し、手術室担当スタッフからの応援を求めるコールに応えて、部屋には麻酔
科医2 人と,30 年以上の経験を持つ耳鼻科の外科医が1 人,看護師が4 人
おり,緊急時に必要な機器もすべてそろっていました.ミニ気管切開用のセ
ットもあり,その場を緊急であると判断した看護師も,気管切開用のトレイ
を準備していました。ところが、上級医師は他に考えられうる対応策すべて
を無視して、気管挿管を試み続けたのです。イレインさんはその後ICU に搬
送されましたが,意識を取り戻すことなく息を引き取りました。
 事故調査によって手術室担当スタッフのうち1 人、そして看護師のうち少
なくとも1 人か2 人は、最善の選択肢が患者の気道を確保するために緊急気
管切開を行うことであると認識していたにもかかわらず、チームの間でその
ことが話し合われなかったことがわかりました。イレインさんの手術に関係
した医療従事者たちは、みな怠慢などではなかったですし、無能でもありま
せん。しかし、目前の患者の状況が悪化した際に、各人が自分(人間)の限
界を見失い、上級医師たちは仲間に助けを求めていれば、得られたはずの支
援を受け入れることができなくなっていました。このような状態から患者を
救うには、協働して気道確保が困難な場合に用いるべきガイドラインを実行
に移せたかどうか、ということにかかっていました。言い換えれば、チーム
メンバー各人がどのようなスキルをもっていたかではなく、チームとして協
働できていたかどうかが問題でした。
 パイロットであるブロミリー氏は、安全を優先する航空業界で求められる
CRMトレーニングの経験から、医療人にも専門的知識や技能(テクニカルスキ
ル)だけではなく、コミュニケーションやチームワークといったノンテクニ
カルスキルの訓練が大切であると訴えています。そして自らClinical Human 
Factors Group (CHFG)を立ち上げ、英国政府と協力して、多職種のメンバー
からなるチームを基盤としたヒューマン· ファクター・トレーニングを推進
しています。そして「お互いに声をかけあえる、オープンで風通しのよいチ
ーム作りをぜひ心がけてください。それが必ず、より安全な医療につながる
と信じています」と。
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■“チームSTEPPS”(チームステップス)
  :エビデンスに基づいたチームトレーニング
 医療事故の原因の多くは個人の問題ではなく、システムの問題であり、ま
たチームの課題であることから、米国連邦政府は、航空業界のCRM、軍隊の
オペレーションや原子力機関などのHROs(High-Reliability Organization;
高信頼性組織)におけるチームワークに関する研究をはじめとした20余年に
わたる科学的エビデンスに基づいていて、“チームSTEPPS”を開発し、その
普及を推進しています。“チームSTEPPS”とは、「Team Strategies and 
Tools Enhance Performance and Patient Safety」(「チームとしてのより
良いパフォーマンスと患者安全を高めるためのツールと戦略」)の略で、医
療の質・安全・効率を改善するエビデンスに基づいたチームワーク・システ
ムです。
■エビデンスに基づいたチーム医療 2.0
 皆さんはどれぐらいの頻度で、「私たち」について語っているでしょうか。
生活習慣病・慢性疾患が増え、高齢化社会が進み、保健・医療・福祉の現場
は複雑となり、多職種が個別の組織を超えた連携が求められています。さら
に保健・医療・福祉の現場では資源が限られており、安全を完全に担保する
システムの構築は極めて困難です。今ある限られた資源・人材を活かし、個
人志向からチーム志向へシフトし、真のチームとして協働できるエビデンス
に基づいた「チーム医療2.0」が求められていると考えています。    
(次号、後編に続きます)
 
   ◆国立保健医療科学院 医療・福祉サービス研究部
        上席主任研究官  種田 憲一郎 氏             
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[2]イージェイネット事務局からのお知らせ
 *働きやすい病院評価事業(ホスピレート)説明会
  東京と大阪にて、働きやすい病院評価・認証の説明会を
  事前予約制にて開催しております。
  説明会参加の旨をお申し出いただきましたら、
  随時、個別にて調整をさせていただきます。
  詳細は、イージェイネット事務局までお問い合わせください。
【場所】株式会社アポプラスステーション 会議室
    〒102-0071 東京都中央区日本橋二丁目14番1号フロントプレイス日本橋8階
    JR東京駅 八重洲地下街23番出口より徒歩7分
    地下鉄日本橋駅 D1出口徒歩30メートル(浅草線・東西線・銀座線)
    地下鉄茅場町駅 12番出口徒歩3分(東西線・日比谷線)
  *平成26年4月より東京会場の場所が変更になりましたのでご注意ください。
【大阪会場】
 説明会は2週間程度前までにお申し込いただければ、随時開催を致します。
 詳細は、事務局までお問い合わせください。
【場所】 株式会社アポプラスステーション 大阪支店 会議室
    〒541-0043
    大阪府大阪市中央区高麗橋四丁目3番7号 北ビル5階
    大阪市営地下鉄 御堂筋線 淀屋橋駅12番出口より徒歩2分
 
******<♪NPOイージェイネット メルマガ事務局より編集後記♪>*******
 11月配信(第71号)のメルマガはいかがだったでしょうか?
今月のメルマガは、医療安全、医療の質やチーム医療について第一線で研究
に従事されておられる国立保健医療科学院の種田先生にご登場頂き、2か月間
かけて、チーム医療についてじっくりメルマガでご紹介させて頂けることに
なりました。(大変ボリュームのある読み応えのある特集記事ですよ~!)
 チーム医療の重要性はずいぶん前から言われていても、どのように取り組
めばよいのか曖昧な感じでした。種田先生から10の疑問を改めて問いかけ
られると、無意識の中で疑問に思っていたことが明確になり、大変分かりや
すくご説明頂いたと感じます。過去の欧米における患者家族に生じてしまっ
た医療事故とその原因・背景について詳しく解説頂き、医療事故の原因の多
くは個人の問題ではなく、システムの問題であり、またチームの課題である
とご指摘頂いて、大変納得しました。さらに安全を優先する航空業界で求め
られるCRMトレーニングは医療人にとって必要ではないかというご示唆や、
チーム医療の有効性についてのエビデンスも蓄積されているとのことで、こ
れからのチーム医療の推進に向けて具体的なトレーニングについて学ぶこと
は必須と感じました。
(お互いに声をかけあえる、オープンで風通しのよいチーム作りは、医療安
全の確保だけでなく働きやすい病院作りにも直結していると感じました)
 次号ではチームSTEPPS(エビデンスに基づいたチームトレーニング)や真
のチームとして協働できるエビデンスに基づいた「チーム医療2.0」につ
いて取り上げます。詳しく内容をご説明頂けるようですので、次号をぜひお
楽しみに~!!!
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さい!!(藤川)
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