特定非営利活動法人 イージェイネット(Ejnet)

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Ejnetメルマガバックナンバー・第78号

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◆◇NPO法人イージェイネット メールマガジン第78号◇◆
「時代をリードする医療人が働きやすい病院の作り方、お教えします」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━2016/6/30  ━━
◆◇━━━━━━━━◆◇◆今月のニュース◆◇◆━━━━━━━━━◆◇
〔1〕『 医療安全と看護師の作業環境 マネジメントの視点から 』        
     ◆地方独立行政法人大阪府立病院機構 大阪府立成人病センター 
        7階北病棟(骨・軟部腫瘍整形外科) 看護師長 山田眞佐美 氏  
〔2〕イージェイネット事務局からのお知らせ   
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〔1〕『 医療安全と看護師の作業環境 マネジメントの視点から 』
 
私は、がんと循環器の専門病院・大阪府立成人病センターの看護師です。
11年間、専任教員として看護教育に取り組んできましたが、臨床に戻り、
看護師が活き活きと働き続けられるためには、看護師の職場や働き方を
科学する必要があると考え、大阪教育大学大学院教育学研究科 健康科学コース
職業科学研究分野で学び、職場環境の改善方法を検討してまいりました。
修士論文のテーマは「看護職場における安全で働きやすい作業環境構築のための
調査研究」です。
今回は、医療安全と看護師の作業環境について、紹介させていただきます。
 
 さて、医療の現場において安全という言葉を聞かない日はありません。
安全とはいったい何なのでしょうか。
 私が実施した看護師の作業環境調査(注1)では、がん専門病院に勤務する
看護師251名の78.9パーセントが、「医療事故を起こすのではないかと不安だ」
という質問に「そう思う」と答えました。
 調査にご協力いただいた施設は病院機能評価V5.0認定を受け、医療安全体制
が充実しています。対象の100%近くが医療機器や薬剤の整備、抗がん剤の
曝露対策、看護師への教育体制などが整っていると回答しました。
しかし一方で8割の看護師は、医療事故への不安を抱えながら仕事をしていることが
わかりました。日本看護協会の調査においても看護師の悩みや不安のトップは
医療事故への不安(注2)であり、離職要因になっています。
 
 河野龍太郎氏は「安全は存在しない」(注3)「医療事故のうち、社会にまで影響を
及ぼす組織事故は、システムにおける作業のつながりの不備から生じている」(注4)
と指摘されています。全くその通りだと思います。
 
 テーブルの上に複数の患者の薬剤を並べ、複数の看護師がナースコールに
対応しながらミキシングを行なう、そのような環境下で薬剤の取り違えがおこることは、
インシデント分析より明らかにされています。医療事故と看護師の作業環境の関連性が
問われるようになり、その具体策を探るべく定量的な測定を試みたのが、
前述の看護師の作業環境調査でした。
 
 看護師の作業環境が物理的に狭いということも、以前から指摘されていました。
前述の調査においても、対象の75.5%が「作業に必要なスペースが確保されておらず、
狭くて作業がしにくい」と回答しました。
見渡すと、ナースステーションはIT機器とそれに付随するコード類であふれています。
古い建物の病院では、大型化したネットワーク用ケーブルを敷設するために、
壁面や天井の通管、床下の配線がなされ、難渋した結果がパソコンや電気配線の
露出という現象を引き起こしています。整備の悪いコード類は手足や椅子でひっかける、
断線、漏電など作業トラブルの要因となる数多くのリスクを孕んでいます。
前述の調査においても、「作業に必要なスペースが確保されておらず作業がしにくい」
と「パソコンや電気の配線が露出して床についている」は正の相関(r=.48,p<.001)
が認められ、見た目の悪さだけでなく作業スペースの狭さを助長していることが
判明しました。
共分散構造分析(構造方程式モデル)ソフトウェアAmosを使用したパス解析において、
看護師の作業環境はスペースの狭さや必要な物の不足による作業性の悪さが
背景にあり、整理・整頓に至らず、それが看護師の動きにくさにつながり、
医療事故への不安、職場の安全や人間関係、この職場で働き続けたいという
勤務継続意思にも影響することがわかりました。
 輸液ポンプ、心電図モニターなどの医療機器にもコード類が付随しています。
点滴しかりドレーンしかり、患者の安全に直結する、まさに生命線です。スタッフ時代、
線類を制するものは安全を制すると、頭の先から足の先まで、患者さんに挿入されている
点滴ルートやドレーン・チューブその先に付随しているコード・電源に至るまで、
どこに何が入っているのか一目でわかるように徹底して整備し、次の勤務者が
困らないようにしていました。
 タコ足配線もよく見かける光景です。安全な電源が確保できなければ、今や医療は
成り立ちません。しかし、施設そのものの対応が追いつかず、現場の看護師が
苦労した結果がタコ足配線に現れていると感じます。5S活動(整理・整頓・清潔・清掃・
しつけ)を徹底している施設では、コード類は結束バンド等でまとめ、床上げされています。こうすることで、事故防止だけでなく見た目も綺麗で清掃もしやすくなり、作業効率が
上がります。
私が異動した先でまず行うのが、配線類の整備と安全な電源確保です。医療情報部や
電気室の協力を得て、スパゲティ状に絡まっている配線コードを整理すると、
たいてい1~2本は不要なコードが出てきます。埃を取り除き、電源は手元操作が
できるように床から上げてもらうことで、後々の作業効率が格段に上がるため、
スタッフからの評価も上々になります。5S活動の「整理」は不要なものを捨てることであり、「整頓」は必要な時に必要なものがさっと取り出せることを意味します。
24時間患者の安全を守る看護師の安全を守るため、整理・整頓を実践し作業効率を
上げることが、安全につながることを実感して作業環境改善に取り組んでいます。 
 
(注1)山田眞佐美:看護師の作業環境調査からみた安全で働きやすい職場の構
造,第44回日本看護学会論文集 看護総合,日本看護協会,2014.
(注2)社団法人日本看護協会広報部:「2009年看護職員実態調査」結果速報.
(注3)河野龍太郎:医療におけるヒューマンエラーなぜ間違える どう防ぐ(第
2版) ,医学書院,2014.
(注4)河野龍太郎:医療安全へのヒューマンファクターズアプローチ 人間中
心の医療システムの構築に向けて,日本規格協会,2010.
 
※次回も山田氏による「医療安全と看護師の作業環境」に関するコラムをお届け
する予定です。
 
 
 
[2]イージェイネット事務局からのお知らせ
 
 *働きやすい病院評価事業(ホスピレート)説明会
  東京と大阪にて、働きやすい病院評価・認証の説明会を
  事前予約制にて開催しております。
  説明会参加の旨をお申し出いただきましたら、
  随時、個別にて調整をさせていただきます。
  詳細は、イージェイネット事務局までお問い合わせください。
 
【場所】株式会社アポプラスステーション 会議室
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    JR東京駅 八重洲地下街23番出口より徒歩7分
    地下鉄日本橋駅 D1出口徒歩30メートル(浅草線・東西線・銀座線)
    地下鉄茅場町駅 12番出口徒歩3分(東西線・日比谷線)
 
【大阪会場】
 説明会は2週間程度前までにお申し込いただければ、随時開催を致します。
 詳細は、事務局までお問い合わせください。
 
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