特定非営利活動法人 イージェイネット(Ejnet)

医療業界の就労環境改善や、適正な人材評価が行われるための仕組みづくりをお手伝いします。

Ejnetメルマガバックナンバー・第85号

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◆◇NPO法人イージェイネット メールマガジン85号◇◆
「時代をリードする医療人が働きやすい病院の作り方、お教えします」
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 2018/1/10━━ 

◆◇━━━━━━━━◆◇◆今月のニュース◆◇◆━━━━━━━━━◆◇
〔1〕 年頭のご挨拶
       NPO法人イージェイネット 代表理事 瀧野 敏子

〔2〕『私が夫と娘をつれて英国留学を決めた理由』
   ◆精神科医 篠原 清美 氏

〔3〕イージェイネット事務局からのお知らせ 
 
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 〔1〕 年頭のご挨拶
       NPO法人イージェイネット 代表理事 瀧野 敏子
 
  謹賀新年

2017年10月に自己対局で成長する囲碁AI(人工知能)「AlphaGo Zero」がGoogle傘下のDeepMind社から発表されたことはまだ記憶に新しい。 AlphaGo Zeroは「深層学習」という人工知能の中の1つの要素技術がコアとなっている。深層学習とは「十分なデータ量があれば、人間の力なしに機械が自動的にデータから特徴を抽出してくれるディープニューラルネットワーク(DNN)を用いた学習」である。
このように自己学習で進化するAIは、労働集約型で非効率な面も多い医療・介護の分野でも活用が期待されるが、産業分野での応用は日本では米国などより遅れをとっているようである。
現場応用で欧米の後塵を拝している要因や社会背景は専門家の分析に任せるとして、この話を聞いて2000年頃のエピソードを思い出したので紹介する。

あるセンサー技術に優れた企業が、尿中のホルモン濃度を測定できるセンサーをトイレに取り付けて女性のおしっこで「更年期に入ったかどうかの」判定ができる製品、という提案をした。これは当時、モニターの女性たちから不興を買ったということでその後、市場で発売されたという話は聞いていない。更年期かどうかなんて知りたくない、余計なお世話よ、ということだったらしい。技術屋のおじさんたちは「おんなごころ」の機微をキャッチできていなかったということである。ところが2018年現在、更年期世代の女性たちは自ら私のクリニックに来院して「更年期かどうかのホルモン測定をしてほしい」というのである。女心は世につれ移ろう。提案する時代がちと早すぎたのか。

またある企業は、入院中のベッドに取り付けて患者さんのバイタルサインを感知し脈拍、血圧、心電図などに変化が起きればすぐにナースステーションに設置された警報が鳴る、という仕組みを開発した。これはどうか?と意見をもとめられたので、当時、病院で一緒に働いていた看護職に聞いてみた。それによると、夜間に病棟のあちこちで些細なことで警報が鳴っても駆けつけることが難しいし第一、モニターを監視する人員がいない、と言われた。本当の課題である人手不足の解消のためにはもうワンステップ要る、ということだったらしい。

ことほど左様に、日本のモノづくり技術系企業の方々が医療者側に提案してくるプレゼンを聞いていると、「こんな服を作ったので身体を服に合わせてほしい」と言われているような気がすることが多い。技術先行で現場とのコミュニケーションの機会が圧倒的に少ないことが原因と考えられる。
といっても医療・介護の現場は日々戦場のようで煩雑な業務に追われて、当事者は自分たちのニーズが何なのかも自覚できていず、ましてや表現することもできないのが実情ではないか。

そこで思うに、医療・介護の現場を熟知していて技術開発セクトとの緊密な橋渡しをするコーディネーターがいればもっと世界と渡り合えるAIの産業応用も進むのではないだろうか。

言うまでもなくわが国の臨床医は、肉体労働、精神労働、感情労働のすべてを同時かつ高度に要求されるためにいつも疲弊している。なかでも多くの女性医師は、育児や介護などの時間的制約のため肉体労働が現場の要求に追いつかないので肩身の狭い思いをしている。
「多様な働き方」のひとつとしてこのような媒介者としての活躍、社会貢献もありではないか、と年の初めに夢想した次第である。

もちろん媒介者となるためには社会に向かって高く立てられた本人の「アンテナ」や「センサー」が必要条件ではあるけれど。


〔2〕『私が夫と娘をつれて英国留学を決めた理由』

   ◆精神科医 篠原 清美 氏
皆さま明けましておめでとうございます。瀧野先生のご紹介で、家族をつれての留学について寄稿させていただくことになった精神科医師の篠原清美と申します。新年初のメールマガジンに載せていただくということで恐縮しておりますが、私の体験が同じような選択で迷っている方の参考になればと思います。

簡単に私の経歴を紹介いたします。私は地方の大学の精神科の医局に入局しましたが、結婚を機に地元大阪に戻って臨床をし、出産後は京都の大学院で院生をしていました。昨年11月から英国オックスフォード大学の精神科部門に、夫と娘(5歳)と1年の約束で留学のため滞在しています。
と、書くとよくある臨床医かつ研究者の留学体験記のようですが、実際には家族や自分の事情で何度か年単位でのブランクが仕事でも研究でもあり、いわゆるキャリアアップのための留学と事情が違います。臨床をやめて大学院にいったのも、当時不妊治療をうけており予測できない治療に臨床の仕事を続けられなくなって仕事を辞めたことがきっかけです。たまたま京都の大学の教室を紹介していただき、研究テーマに興味があったのと在宅でできるデータ整理作業が中心であったため大学院に進学することになりました。その後幸運なことに子供を授かり保育園も確保できたので、大学院を続けながら自宅での研究半分と育児半分の生活を送らせてもらいました。夫は内科医であるため、家事や育児は家にいる私が中心になっていました。こういった状況と大学が遠方であったため、院生としての活動は限られていましたがなんとか卒業にこぎつけました。大学院の卒業後は徐々に臨床の仕事に戻ろうと考えていたところ、母が66歳でがんで急逝し全く事情がかわってしまいました。

 母は自分の家族を献身的に支えてきた人で、隣に住むとても扱いづらい性格の姑の介護を20年以上してきました。私たち子供2人も決してすんなりまっすぐには育っていなかったので大変な苦労をかけました。祖母が93歳で亡くなってすぐに初孫(私の娘)が生まれ、今度は育児のサポートをしてくれていたのですが3年もたたずにがんが見つかり4か月で亡くなりました。母はしごく健康で検診でも全く異常がなかったですが、非常に発見の難しいがんで診断されたときには治療はできない状態でした。家族で大急ぎで旅行に行き弟が仕事をやめて自宅で介護し、皆で全力をつくして嵐のような時間が過ぎました。亡くなるまであっという間でした。

母が亡くなった年に大学院を卒業し、実家に残された父と弟の様子を見に行きながらなんとなく過ぎていた去年の1月、共同研究をしていたオックスフォード大学の研究者が来日することになりました。英国には10年以上前に旅行で訪れ、特にオックスフォードを気にいっていたのでいつか留学できたらなあと考えていました。とはいえ、英語の勉強はぼちぼち続けていたくらいで、研究留学というほどの実績も若さも今後の展望もありませんでしたが、教授にお願いして紹介してもらうことができました。ダメもとで「留学したい」と伝えたところ「給料は出ないけど良いのか」「ご主人はどうするの?」と聞かれましたが、それさえクリアすればOKということでした。

通常こういった留学の場合、2-3年前から計画し、助成金をとるか給与のもらえるポストを得て留学するのが一般的です。また、私の周りでは妻の(しかも給与もでないのに)留学につきあって夫が仕事を辞めていく、というのも聞いたことのないパターンでした。相談すると周囲の人には必ず「ご主人はその間どうするの?」と聞かれました。家族の貯金を切り崩して将来のキャリアにもつながらない留学をしてよいかのか、と悩みましたが夫が「1年だったらいったらいいんじゃないか。子供の世話は自分がするよ」といってくれたので(このあとこれだけの苦労につながるとは本人も思っていなかったと思いますが)1年間の留学を決断しました。家族、特に孫に会うことだけを残された楽しみにしていた父には大変なショックでしたが、最終的には賛成してくれました。

その後もビザのことなど大きな問題がありましたが不思議に助けてくれる人が現れて渡英が実現しました。実際に英国に来てからも日常のすべてにトラブルがあり大変でした。特に問題なのは今まで私が中心でしていた家事や育児を夫と交代しようとしたことです。夫はほぼ初めて料理をするのですが調理器具一つでも2人の置く場所の違いでイラっとし、英国では万時がスムーズに解決しないのでトラブルがあるたびに二人で対処法をめぐって摩擦がおこりました。娘もすぐには夫の送り迎えに慣れてくれず、英語がわからないため引きこもりがちで一日ネットで日本の動画をみている日もありました。育児に関する方針も今までは私が決めて夫が従っていたので、夫の意見を聞くよう努めるようになりました。最近は日本人の子供のいるお宅に招かれたり、少しずつ夫も娘も外に向かって出て行っているところです。海外に来てそれぞれがそれぞれの壁にぶち当たりながら日々成長している感じです。

では留学して何を得たのか?出発前に瀧野先生に「留学して何が得られるの?」と聞かれてとっさに答えられず、「留学してからわかるのかもね」と先生に逆に言われたのですが、まさしくその通りだと思います。留学前に夢見た「研究も家庭も充実した日々」というのとは違いますが、やはり留学しなければこういう状態にはならなかっただろうと思います。留学は家族にとって大きな変化で、それがあったからこそ変われたともいえます。家の中では家族と外では英国との衝突と相互理解の繰り返しですが、お互いの価値観の違いを受け入れて落としどころを探る努力をするようになりました。夫と家庭内の役割をいっぺんに変えようとしたぶん摩擦も大きいですが、こんなきっかけがなければ変わるのは難しかったと思います。実家の父にしても留学が決まってからスマホを買い趣味も再開しました。

留学は、私にとって母の死を乗り越えて次のステージに向かうために必要な旅というか修行ではないかと思います。経済的なことなどデメリットはありますが、仕事や家族の状況など幸運と周囲の理解と偶然が重なってかなえさせてもらいました。私の場合は留学でしたが、皆さまも留学に限らず何かチャンスがあってやってみたいと思うことがあれば、挑戦してみると意外なものを得られるかもしれません。苦労は多いですが、これからも残り10か月を十分に生かすべく日々変わり続けていきたいと思います。皆さまにとっても新たな一年がよいお年になることをお祈りしております。

2018.1.11. オックスフォードにて



〔3〕イージェイネット事務局からのお知らせ 
*働きやすい病院評価事業(ホスピレート)評価委員会
  2018年2月18日に開催されます。
  委員の皆さまどうぞよろしくお願いいたします。

*働きやすい病院評価事業(ホスピレート)説明会
  東京と大阪にて、働きやすい病院評価・認証の説明会を
  事前予約制にて開催しております。
  説明会参加の旨をお申し出いただきましたら、
  随時、個別にて調整をさせていただきます。
  詳細は、イージェイネット事務局までお問い合わせください。

【場所】プライマリー・アシスト株式会社本社・東京支社 会議室
東京都千代田区四番町4-8野村ビル4階
JR市ヶ谷駅/地下鉄市ヶ谷駅3番出口より徒歩4分
地下鉄麹町駅6番出口より徒歩4分
JR四ツ谷駅麹町口より徒歩7分

【大阪会場】
説明会は2週間程度前までにお申し込いただければ、随時開催を致します。
詳細は、事務局までお問い合わせください。

【場所】プライマリー・アシスト株式会社本社 関西支店 会議室
大阪市北区梅田1-1-3 大阪駅前第3ビル7階 
JR大阪駅より徒歩8分 
阪神梅田駅より徒歩5分 
阪急梅田駅より徒歩10分
    
※ メールマガジンの配信を当分の間、月刊から季刊に変更いたします。
次回の配信は2018年4月です。

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